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食は文化なり@インドネシア  by  A.K.I

2017/02/13 16:47

食は文化なり@インドネシア
by A.K.I



 海外ではその国の料理を食べるのが楽しみ!という方も多いことでしょう。国によって異なる食は正真正銘その国の文化の一つ。風土や気候に適した食材や調理法で、調理器具も見た目も味も外国人にとっては目新しい特色がいっぱい。インドネシア料理では、サテ(鶏・ヤギなどの串焼き)、ガドガド(ピーナッツソース和えのサラダ)、ミー・アヤム(鶏汁そば)、ナシ・ゴレン(インドネシア風焼き飯)など南国イメージにぴったりの品々が次々と浮かぶかと思いますが、今回はそんなど真ん中インドネシア料理の話題ではなく、その周辺に目を向けたインドネシアらしさを感じる食周辺事情をご紹介します。


1.石器時代のような調理器具



 食欲を刺激するスパイシーな香りが漂ってくる街角の屋台をふと見ると、目に留まる石うす。これを目にして、なんだろうこの現代社会に馴染まない石器のようなものは?と気になった方も多いのではないでしょうか。日本では食材を磨り潰すのには、ギザギザの溝が刻まれたすり鉢と木製のすりこぎを用いるところ、インドネシアで用いられるのがこの石でできた”チョベック Cobek” と”ウレカン Ulekan”。ウレカンを上から掴むようにしてしっかり握り、手首の回転で食材をすり潰していきます。力の入れ方にコツがあるようで、質の異なるそれぞれの食材を順にうまく磨り潰すには少々慣れが必要そうです。
 そんなことから、唐辛子をはじめとした各種スパイスをすり潰しブレンドして作られるインドネシア料理に欠かせないソース、サンバルの味は、使用されるスパイスの種類もさることながら、「手により、心により、味が異なる。」と言われ、インドネシアの人々にとってはおふくろの味的な要素もあるのかもしれません。
 忙しいジャカルタのような都市部では、手軽にミキサーを使う家庭も増えつつあるようですが、まだまだあちこちで目にするこの石うす。是非使ってみたいという方は、大型のスーパーや庶民的なパサールでも、キッチン用品を扱っている棚を覗いてみるといろんなサイズのものが並んでいて、意外と身近に入手可能です。


2.身近に目にする鉈(なた)



 何故こんなところに鉈が転がっているの?と町の道端で初めて目にするとその不用心な感じに少々ドキッとすることもある鉈。無造作に置かれているかに見える鉈の脇には、たいていココヤシの実が山積みになっています。そうですこの鉈、ココヤシを割るのに使われます。日本では鉈を日常的に見かけることもなく、取り扱いに困ってしまいそうですが、こちらの人々の鉈さばきは見事です。器用に実の上部をカットして、その穴からストローを挿し飲むココナッツジュースは、自然な甘さがありミネラルも豊富で暑い南国の水分補給にもってこい。ペットボトル飲料よりも街角で多く見かけると言えそうなくらい日常的な情景です。
 このココナッツ、ジュースを飲み終わったら、皮の内側の白い胚乳部分をすくって食べたりもしますし、それを乾燥させて削ったものが製菓材料ともなるココナッツパウダー。または、ココナッツ専用として売られているおろし金でフレッシュな胚乳部分をすり下ろし、水を加えてしばらくこねた後濾過して得られる白い液体、これがココナッツミルクです。インドネシアではサンタンと呼ばれ、その風味を生かしたスイーツにも、またご飯を炊く際や煮込み料理やカレーなど幅広いインドネシア料理に利用されます。インドネシアらしい風味をもたらす特徴的な素材の一つです。


3.笹の葉ならぬバナナの葉



  南国の風景に欠かせない大きな葉を風にたなびかせる植物、バナナ。そんなバナナの葉はとっても優れもの。場合によっては家の屋根を葺くのに使われたり、はたまたインドネシア伝統的弦楽器の雑音取りに弦の間に挟むという用途で使われていたりもします。そして、インドネシアの食卓にはなくてはならないもの。お皿のように料理の下に敷かれていたり、イベント会場などで振舞われるランチボックスの中ではご飯が包まれていたり、ちまきを作る際に具材を包んでそのまま蒸したりするのにも使われます。インドネシアの発酵食品テンペもバナナの皮に包まれて売られているし、とにかく登場頻度が高いです。
 まずこの葉の大きさはさまざまなものを包むのに最適。また、もち米など粘り気のある食品でもくっついてしまったりせず、水や油が染み出ることもない。適度な厚みは保水力があるように思われ、それら要素から食品を包むのに適していることを実感します。
 日本では食品を包むのに笹の葉や、柿の葉、竹の皮などが昔から生活の知恵として使われていますが、それが熱帯の国に行くとバナナの葉になるというのはなかなか興味深いです。南国のどこにでも見かけるバナナなので田舎の村ではいざ知らず、ジャカルタではバナナの葉はローカルな市場に行くと野菜などと並んで束ねられ売られています。食卓にちょっと取り入れてみると、一気に南国感が増します。

 ちなみに、もちろんバナナの果実もインドネシアでは欠かせません。熱帯のこの国らしく、日本では見たこともないような巨大なものから一口サイズの小ぶりなものまで品種もさまざま。果物売り場では、日本と同様に一房ごとカットされて並んでいるのが一般的ですが、パサールでは房が幾重にも重なり繋がった、木からぶら下がっていた状態のままの一枝で置かれていることもあり迫力があります。インドネシア語にバナナを数える助数詞が一房ごとを数える”sisir” ともう一つ、連なった一枝のバナナを指す”tandan” という日本語には無い助数詞があるのもうなずけます。それら果実は生でそのまま食べるだけでなく、巨大な品種は定番スナックであるピサン・ゴレン(揚げバナナ)にして食べるのに適しているそうで、食感も味も食べ方もバリエーション豊富で、バナナ一つ取ってもなかなか奥深いです。


4.気になる緑色の食品



 食パンまで緑色なのにはさすがにちょっぴり驚きましたが、インドネシアのお菓子にはこの綺麗な緑色がたくさん見られます。日本で緑色というと抹茶味ですが、抹茶であれば色はもう少し落ち着いた暗い緑。それとつい比べてしまうので、見慣れないうちはこんな明るい緑色とはどんな着色料が使われているのだろうかと少々気になってしまいますが、この色の正体は南国で生育するパンダンという植物の葉を煮出して作られる天然の緑色色素です。
 このパンダンリーフ、色素としてだけではなく独特の香りも持っています。その香りはバニラよりももう少しこってりとした、個人的には濃厚な甘さにお米を炊いた時の香りをミックスしたような風味と感じますが、東南アジアの国々では好まれる香味のようで、お菓子やアイスクリームだけではなく、料理の香りづけにも用いられます。さらには、アパートのエレベーターに漂うこの香りが、一時的なものではなく日々芳香剤として撒かれているとわかった時には、空間に漂わせるにはもう少しさわやかな香りがいいのではないかと私は思わなくもありませんでしたが、これもその土地柄といえるでしょう。

 インドネシアの伝統的なお菓子は、ういろうぽかったり、蒸しケーキ的だったり、もち米が使われていて弾力のある食感のものだったり、小豆や緑豆の餡が入っていたり、意外と日本の和菓子と通じる要素があるので、抵抗なく食べられるものも多いです。色の正体がわかったところで、緑色のお菓子も機会があれば是非食べてみていただきたいと思いますが、味はかなり甘めな上に、このパンダンやココナッツの風味が効いたものが多いので、嗜好性に合うと病みつきになりそうですが、慣れないうちは繊細な日本の緑茶ではなく、主張の強いコーヒーあたりを片手に南国の味、トライしてみてください。


5.定番のケーキはレインボー



 色の話題に続いてもう一つ。ケーキ屋さんのショーケースを覗いてみると必ずといってよいほど並んでいるのが、いやでも目に留まるこの色鮮やかなレインボーケーキ。発色の良い虹色はあきらかに人工着色料と思われますが、見た目にも楽しいこの鮮やかな色彩はインドネシア人好みのようで、洋菓子店の品ぞろえはこのケーキ以外もかなりカラフルです。食すものとなると、どちらかといえばナチュラル感のある淡い色彩のものに惹かれるヘルシー嗜好な日本人にはやや抵抗がありますが、ものは試しと食べてみたところ、見た目に負けず味もなかなかヘビー。日本のふんわりして繊細な軽いスポンジと生クリームがちょっと恋しくなってはしまいますが、子供のお祝いや仲間でワイワイ集う時にはその場を盛り上げるアイテムになること間違いなし。

 ケーキのみならず、カラフルな色彩感覚は南国の強い日差しの中育まれた一つの特徴であると思われます。街ゆく人々の服装を見ても色が溢れています。日本でも名の知れたスポーツ用品店を通りかかると、インドネシアの嗜好に合わせ陳列されているシューズなど、同じメーカーのものとは思えない鮮やかな色彩のものが取り揃えられています。道路脇の家々の壁の色も見てみてください。ブルー、オレンジ、黄色、紫、ピンクと、あらゆる色が見られます。街角のペットショップでは、赤・青・黄・緑など色とりどりに着色された小鳥が売られていたりもしますし、コタのバタヴィア広場でレンタルできる自転車もピンク・紫・オレンジと車体とおそろいの大きなつばの麦わら帽子までセットで貸し出され、広場に花を添えています。
 食品は、味だけではなく見た目も食欲を引き出すのに重要な役割を果たしますが、これもまた国によって食べてみたいと感じる感覚が異なるのだなと思わされます。


6.食材いろいろ



 日本ではなかなか手にすることの無いその土地ならではの珍しい食材を試してみたいと思われているあなた。インドネシアにもいろいろと驚きの食材があります。
 肉と聞くと何肉を思い浮かべますか?まず、身近なところではインドネシアの代表的料理、串焼き肉サテは、鶏 ayam 肉に次いでヤギ kambing の肉が日常的に食べられています。そして、アヒル bebek の料理も良く見かけます。さらには、かわいいウサギ kelinci はペット用かと思いきや食用で売られているのだと聞いてびっくり。中華料理の流れかとは思われますがカエル kodok も揚げものにして食べられます。参考まで、豚 babi はイスラム教では穢れとして食すことが禁じられていますが、中華料理店や、ヒンドゥー教徒の多いバリ島では豚の丸焼きといった名物料理もあります。また、犬 anjing もイスラム教では不浄な動物として敬遠されますが、スマトラ島やスラウェシ島のエリアによっては食されていて、その地方出身者によると黒い犬がおいしいのだそう。
 スラウェシ島ではその他ヤシガニやコウモリも名物料理としてよく話に聞きますが、私が訪れた際少々興味のあったヤシガニは残念ながら品切れ。コウモリは、ネズミ等と似て雑菌の宝庫と聞いて怖気づいてしまいリクエストする勇気すら起きませんでした。

 観光地としても有名なジョグジャカルタの近郊を車で走っていると、道端に”Walang goreng”と看板を掲げた屋台が続々と現れました。Goreng は油で揚げる料理をさしますが、Walang はさて何でしょう?この地方の名産だというので味わってみようと車を降りてみてみると、なんと、巨大なバッタの素揚げでした。日本でもイナゴの佃煮というのがあるし、バッタの類は蛋白質豊富な食材と聞きますが、巨大なバッタ。その外観を見ると口に入れるのを躊躇してしまいますが、旅の記念にと腹をくくり一つ食べてみると、甲殻類のような香ばしさは感じられませんが、カリカリとした食感はカワエビの唐揚げと言われるとそう思えなくもなく。もう一度食べたい気は私はあまりしませんが、その土地ならではの食材、よき思い出となりました。


<まとめ>
 300もの民族からなるインドネシア。民族それぞれに特有の風習文化があり、”インドネシア”とひとくくりに説明するのは難しい部分がありますが、南国ならではの食周辺事情を少し垣間見ていただけたでしょうか。”食は文化”というように、食がその土地のことを知る糸口となることも多々あります。せっかくなので、その土地でしか食べられないものを試してみるということも良い経験ですし、また土地の人が食べているものを一緒に食べるということは、お互いの距離感をぐっと縮める働きもあります。とはいえ、生活習慣の中でも、食習慣というのは体調にも影響する可能性もありなかなかすぐには受け入れがたいところもあるので、無理のない範囲でその土地を知ろうという姿勢は持っていたいものです。

 

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